ラチェットハンドルのギア数（歯数）の違い。多いほどいいのか？╱後編

ラチェットハンドルのギア数（歯数）解説の後編。ギア数が多くなることのメリットは確かにあるが、単純にギア数が多いほうが絶対的に有利…とも言い切れないという、ちょっとマニアックな知識。

ラチェットのギア数が多いほうが有利、という話は絶対的なものではない

「ラチェットハンドルのギア数（歯数）の違い。多いほどいいのか？」の続き。

●レポーター：イルミちゃん
ラチェットのギア数（歯数）が多いと、空転時のノッチ数が多く稼げるので、1ストロークあたりの回転角度が増える（はず）という理屈は前回説明した通りです。

●アドバイザー：KTC トリー研究員
36枚ギアのKTCより、90枚ギアのネプロスのほうが、早く効率的にねじを回せる。

●DIYラボ別館ユキマちゃん
とはいえ、ギア数が多いほうが回転角度が大きいというのは、平均的に言えば……の話です。この話には逆転現象もありますので。
逆転現象…？
条件によっては、ギア歯数が少ない方が回転角度が大きい（効率がいい）場合もあります。
なんで？？？
歯数が少ないギアは、1ノッチ当たりの送り角度が大きくなります。

ネプロスのラチェットハンドルは90枚ギアを採用しているが、仮に同形状・同サイズで36枚ギアであった場合にはどういう差が生じるかを図にしたもの。

ということは、ラチェットを空転させるときのノッチ数が同じなら、歯数が少ない方が回転角度が大きいという逆転現象が起こります。
え～っとよく分からないんだけど……具体的にはどういう条件下で起こるのだろう？
ここで、1ストロークあたりの回転角度の違いをシミュレーションしてみました。
マニアックだなぁー。
例えば、ラチェットハンドルの振り幅が100ミリの状況だとしたら、以下のように結果になります。

振り幅 100mmでのシミュレーション

ギア歯数	1ストロークのノッチ数	1ストロークの回転角度
18枚	1	20度
24枚	1	15度
36枚 ※KTC	2	20度
60枚	4	24度
72枚	5	25度
90枚 ※ネプロス	6	24度
100枚	7	25.2度
120枚	9	27度

この場合、72ギアと90ギアを比較すると、90ギアのほうが回転角度が小さくなっています。18ギアと24ギアの関係も同様ですね。
あ、ホントだ。
必ずしも、ギア数に比例して回転角度が大きくなるわけではないのか。
そこは条件（ラチェットの振り幅）によって、変わりますので。
ナルホド。
しかし、逆転現象がおきたとしても、歯数が多ければその差は少ないです。上の例でいうと、18ギアと24ギアは25％の差がありますが、72ギアと90ギアは5％しか差がありません。
72ギアと90ギアの逆転現象は、無視できるレベルってことね。
だから色々な条件を平均すれば、ラチェットのギア数（歯数）が多いほど効率よく作業できるとは言えます。
では、ラチェットのギア数（歯数）は多ければ多いほどよい、が結論だ！
そうは言いません。
あ、あれ……？
平均すると歯数が多い方が有利なのですが、振り幅は作業によって変わるし、90ギア・100ギアのレベルになるとその差はわずかなので、やみくもに歯数を増やす＝正義ではないということです。
まあ確かに、歯数を増やすことになにもデメリットがないなら、ネプロスだってさらにもっと増やせばいいはずよね…？
ギアの歯数が増えるとクロウとの接触面積が減り、強度的に不利なので、強さを確保するための形状や機構、さらに加工精度も要求されます。
それとネプロスの場合は「音」にもこだわっているみたいだしね。
今のところ、操作性・強さ・コスト等を総合的に判断すると、これ以上ギア数を増やすのはデメリットの方が大きいとKTC（ネプロス）では判断しています。
ちょっとマニアックな、ラチェットのギア数（歯数）のお話でした。